
AI(人工知能)や自動化技術の加速的な進歩は、私たちの生活や労働環境を大きく変化させています。
こうした変化は新たな価値や利便性をもたらす一方で、「雇用が奪われる」「労働市場が二極化する」など、社会的・経済的格差を広げる要因となることが懸念されています。
そこで注目されているのが、ベーシックインカム(以下、BI)です。
経済学界においてもAIによる雇用変化が顕著になる近未来こそ、BIを導入する必要性が高まると主張しています。
今回は、AI時代における格差拡大の背景と、それを解消する手段としてのBIの必要性を掘り下げます。
1. AI時代に進む「格差」の本質
(1) 高度な自動化が生む雇用機会の減少
AIやロボットは、これまで「人間だけができる」と思われていた業務や知的作業までも代替できるようになりつつあります。その結果、
- 大量の定型作業が自動化される
- 事務職やサービス業、さらには専門領域にも影響が及ぶ
といった形で、広範囲な雇用が縮小するリスクがあります。
皆さんも日々の生活で感じることがあるのではないでしょうか??
(2) 収入格差の拡大
AIを活用できる企業や人材は、生産効率の向上やビッグデータ解析を通じて大きな利益を得られる一方、AIに取って代わられる業務に従事していた人々は職を失い、非正規や低賃金の仕事に流れやすくなります。すると、経済格差はより先鋭化してしまうわけです。
(3) 新たなスキル要求と「学べる人・学べない人」の格差
今後は、AIを使いこなす能力や高度な創造力・コミュニケーション力を持つ人材が重宝されます。しかし、それらを習得できる環境や教育機会がある人と、そうでない人とのあいだに「スキル格差」が生まれ、収入格差につながる可能性が懸念されています。
2. AI失業リスクへの備えとしてのベーシックインカム
AI技術が社会の隅々まで普及すると、雇用構造が大きく変わり、努力しても十分な仕事が見つからないという状況が現実化するかもしれません。
このリスクに備えるには、労働に依存しない所得保障の仕組み――すなわちベーシックインカム(BI)が不可欠だと考えられます。
(1) 「働く・働かない」に左右されない所得保障
BIは、全ての市民に無条件で一定額を給付する制度です。働き口が極端に減った社会でも、生活に必要な最低限の収入を確保できるため、失業や非正規雇用であっても困窮を防げます。
(2) 格差拡大の歯止め
AI時代の格差拡大は避けられない面もありますが、BIがあれば少なくとも貧困層が急増する事態は抑えられると期待されています。それは以下の理由からです。
- 高所得者がより豊かになる一方で、低所得者層がある程度の生活基盤を維持できるようになる
- 結果的に格差の広がりが緩和される
(3) 新たな挑戦を後押し
「働く場所がないなら自分で仕事を作る」という選択肢も、生活苦の状態ではリスクが大きいものです。だからみんな起業することに躊躇しますよね。
BIがあることで起業やフリーランス、創造的な活動(アート活動など)、学習への投資など将来へのステップアップに挑戦しやすくなり、AIに奪われない新たな価値創造を生むためには人々に一定の経済的安心感が必要だという点です。
3. ベーシックインカム導入の意義=AI社会を前向きに捉える
AIによる自動化が進むと「仕事が奪われる」という不安が強まりますが、むしろ「仕事からの解放」というポジティブな側面を見出してくれるチャンスでもあります。
人間がやらなくてもいい仕事をAIやロボットが担ってくれるのは、人間がより創造的・人間的な営みに専念できるチャンスとも言えるのです。
例えば、大手通販サイトのAmazonでは、自社倉庫内で活用するロボット技術「Amazon Robotics」を導入しており、これまで人の手で行っていた作業の大半がロボットによって処理されています。それは人間が職を失ったのではなく、新たなチャレンジを行えるチャンスが増えたとも取れますね。
- 負の側面: 雇用の減少、所得格差の拡大、社会不安の増大
- 正の側面: 自動化による効率化、新たな産業の誕生、働く時間の短縮
BIがしっかり機能すれば、失業や不安定雇用に対処しつつ、AI社会に適応するための教育・学習・イノベーションの土壌を育むことができます。
4. なぜ今、AI時代にBIが必要なのか
- 大規模な社会変革への迅速な対応
AI・ロボット技術は進歩のスピードが速く、想定より早く労働市場を激変させる可能性があります。従来のセーフティネット(失業保険、生活保護など)だけでは対応しきれない規模の変化が起きる恐れがあるため、事前の制度準備としてBIを検討すべきです。 - セーフティネットの段階的拡大と実証
しかし、いきなり実装は現実的ではありません。まずは段階的な導入で社会実験を重ねながら制度設計を確立するべきです。- 少額給付→効果検証→給付額の検証→拡大
- 就労意欲への影響や消費需要への効果を観察し、必要に応じて調整
- 革新的テクノロジーの恩恵を社会全体で分かち合う
AIやロボットなどの技術は、一部の大企業や富裕層だけが巨大な利益を得る構図になりがちです。なぜならばイニシャルコストが莫大だからです。しかし、BIを通じて経済的リターンを国民全体に還元できれば、その恩恵がより均等に行き渡り、格差拡大の抑制につながると考えられます。
まとめ
AI時代の格差拡大は深刻な社会問題として顕在化しつつあります。
働き口の大部分が自動化される未来に対し、ベーシックインカムによる効能は「AI失業」の安全網づくりです。
- BIがあることで、失業や所得減少に対する不安を和らげる
- 創造的な活動や新たな産業への挑戦を促進し、労働からの解放を前向きに捉える
AI技術がもたらすメリットを社会全体で享受し、格差を最小限に抑えるためにも、ベーシックインカムの導入が必要だという声は今後ますます大きくなるでしょう。
ただし、財源問題や既存制度との兼ね合いなど、クリアすべき課題は多いのも事実。次回以降の記事ではそうした具体的な課題や解決策についてさらに掘り下げていきます。
