
ベーシックインカム(以下、BI)は、単なる生活保障策にとどまらず、格差解消を目指す再分配システムとしても注目されています。(むしろ私はその論点を重視しています)
ここでは、具体的にどのような仕組みで格差を縮小し得るのかを解説します。
1. 無条件給付が生み出す「底上げ」効果
ベーシックインカムの最大の特徴は、無条件で一定額がすべての国民に支給されるという点です。現行の福祉制度(生活保護、児童手当、失業給付など)は、厳格な審査や受給要件があるため、本来支援が必要な人でも制度の隙間から抜け落ちてしまうリスクがあります。
しかしBIでは、
- 低所得者ほど「生活資金としての重要度」が高まる
- 「条件なし」で受給できるため、必要な人ほど確実に恩恵を受けられるという仕組みにより、社会全体の下支え(セーフティネットの底上げ)が期待できます。
結果として、何らかの理由で雇用が不安定だったり収入が低かったりする層にとって、BIが実質的な最低所得ラインを保障し、所得格差の最下層を改善する効果をもたらします。
2. 増税分を通じた高所得者層への「還付」の薄さ
BIは「国民全員に給付する」ため、一見すると高所得者層にも同じ額が支給され、「不公平ではないか」という意見がよく出ます。しかし、多くのBI論者が提案しているのは、所得税や富裕層への課税強化によって、その支給額の大部分を高所得者から回収する仕組みです。
- 所得税率の累進強化
- 高額所得者ほど税率を引き上げることで、支給されたBI分を上回る税額を納める状況をつくる。
- これにより、高所得層への事実上の「還付」は薄くなる一方、低所得層ほど「もらう額の割合が所得に対して大きくなる」構造が生まれる。
- 富裕層の資産課税やロボット・AI課税
- 資産所得(株式配当、不動産収入など)や大企業のAI活用益などに対して、強化した課税を導入する。
- BIによる生活保障コストを、富裕層や高収益法人から広く回収することで、「全員給付+累進課税」の組み合わせを可能にする。
こうした仕組みによって、経済的に豊かな層からの実質的な財源拠出が行われ、低所得層ほど手元に残るお金が多い形になるため、結果的に格差が縮小するわけです。
3. 実質的な可処分所得の増加
現行の福祉制度では、就労して収入が増えると支給がカットされる「給付の崖」問題など、働くインセンティブを下げる仕組みがしばしば指摘されます。
一方、ベーシックインカムは「どんな収入状況であっても給付額が変わらない」ため、仮に低所得者層がバイトや仕事を増やして少しでも収入を上げると、その分だけ実質的に収入が純増するのが特徴です。
→BIの一定給付+働いて得た給与・報酬
という形で、低所得者の可処分所得が底上げされることで、相対的貧困ラインを抜け出せる可能性が高まります。これも所得格差の縮小に大きく寄与するメカニズムです。
4. 「スティグマ(烙印)」のない再分配が低所得者の自立を促す
従来の生活保護などは、「受給していることを周囲に知られたくない」「審査や手続きが煩雑で恥ずかしい」などの心理的抵抗(スティグマ)が問題視されてきました。その結果、必要なはずの支援を受けられないケースも少なくありません。
ベーシックインカムであれば、
- 全員が受給対象
- 特別な申請や審査が不要
となるため、「他人から後ろ指を指される」という不安が払拭されやすい心理的メリットがあります。
低所得者ほど「制度を利用したいがための手続き負担」というハードルが取り除かれ、安心して受給できることで、貧困状態からの自立を後押しする効果が期待されます。
5. 結果的に格差が縮まる仕組み
まとめると、ベーシックインカムが格差解消に貢献する仕組みは以下の通りです。
- 無条件給付による最低所得ラインの底上げ
- 生活に困窮している人ほど相対的恩恵が大きい。
- 累進課税による高所得者層からの回収
- 高所得層から多くの税を徴収することで、支給額を事実上「相殺」し、所得再分配を実現。
- 働いた分だけ純粋に可処分所得が増える
- 給付打ち切りのリスクがないので、低所得者の就労意欲を高め、所得アップが格差縮小につながる。
- スティグマのない支援で社会の底辺を広く救済
- 受給要件なしで平等に支給されるため、貧困者の自立や社会参加を後押しする。
こうしたメカニズムによって、「高所得者がより多くを負担し、低所得者がより多くを受給する」という、シンプルかつ強力な再分配効果が働きます。この再分配がAI時代における格差拡大を緩和し、誰もが最低限の生活と自己実現の機会を得られる社会へと導く鍵になると確信しています。
まとめ
BIは「ただ生活を保障する制度」という理解を越えて、高所得層への課税強化と組み合わせることで強力な格差解消ツールとして機能し得ます。
AI時代の雇用減少や収入格差の拡大が懸念される今だからこそ、BIがもたらす再分配の仕組みに改めて注目する必要があり、格差を是正しながら社会の活力を高める方策として、BIの議論はますます重要性を増していくでしょう。
