
かつて、働くということは「生きるために必要なこと」でした。
労働によって報酬を得てて生活を支える。その前提がゆっくりと、しかし確実に揺らいでいます。
その背景には、AIと言われる人工知能や自動化技術の急速な発展があり、我々が担ってきた業務の多くがすでに機械へと置き換わりつつあり、その速度は想像以上の速度です。
単純作業に限らず、文章作成や翻訳、設計や顧客対応(無人レジとか)、さらには法律など人間でも難航する文書の下書きに至るまで、「人間にしかできない」とされていた仕事が、AIによって実施されています。
この流れが意味するのは、雇用の絶対数が減る可能性が高い未来、そしてそれに伴う所得格差の拡大です。
一部の「AIを生み出せるor使いこなせる人」が富を独占し、それ以外の人が淘汰されていく――そんな危機的な状況になりつつあります。
こうした時代において、働くことの意味を再定義し、全ての人が最低限の生活を保障される社会を築くために、今、最も現実的かつ本質的な提案として浮かび上がっているのがベーシックインカム(BI)です。
「不安からの解放」が、挑戦する自由をもたらす
繰り返しになりますがベーシックインカムとは、すべての国民に無条件で一定額の現金を支給する制度です。
「働いていようと、いま失業していようと、年齢や家族構成にかかわらず、毎月7万円が必ず振り込まれる」仮にそんな社会が実現すれば、私たちの生活と意識はどんな風に変わるでしょうか?
まず最も大きいのは、「生きていくために働かなければならない!」という恐怖から解放されることです。
BIによって最低限の生活費が保証されれば、たとえば正社員を辞めて副業に挑戦したり、一時的に収入が途切れても学び直しに専念したりといった選択が、恐怖ではなく希望のもとに可能になるのです。
ここからもBIが「働かなくなるための制度」ではなく、「働き方の自由度を高める制度」という一面を持っていることが分かりますね。
今まで「生活のため」に無理にしがみついていた仕事から解放され、「本当にやりたいこと」「価値を生むこと」「社会に貢献すること」に向かって、力を注ぐ余白を取り戻せる。それがBIの持つ最大の意義だと言えるでしょう。
「仕事がある人のため」から、「誰もが生きられる社会」へ
雇用保険も年金など現代の社会保障制度は、基本的に「働いている人を基準に設計されている」側面が強くあります。
しかし、AIが労働の需要を根本から変えてしまう社会においては、“働ける人をどう支えるか”ではなく、変化した社会構造にどう適合するかこそが、政策の中心でなければなりません。
BIは、労働に応じて支給される制度ではなく、あくまで「人が生きている」ことに対してその生存権を支えるために設計される仕組みです。
だからこそAI時代にこそ最も必要とされるのが、人間の存在そのものに対する肯定と保障です。
BIが導入されればフルタイムの正社員という形式に固執する理由は薄れ、パートタイム、フリーランス、複業(いわゆるパラレルキャリア)といった、柔らかく多様な働き方が広がっていくでしょう。(あまり言われないが、セカンドキャリアの下支えにもなると考えます)
さらに、生活の不安が和らげられればこれまで「お金になりづらい」とされてきた活動、たとえば地域のボランティアやアート活動、介護に子育て支援、教育支援などにも、より多くの人が参画しやすくなります。
つまり、BIは「経済的な効果」だけでなく、人間社会に必要不可欠でありながら市場で評価されづらかった価値の再評価を促す政策でもあるのです。
「働かなくなる」わけではない――むしろ、働き方の質が変わる
もちろん、BIに対して「人々が怠けて働かなくなるのではないか」という懸念があるのも事実です。
しかし、国内外の実証実験や研究によれば、BIによって人々の就労意欲が著しく低下したという明確な証拠はほとんど見つかっていません。→関連情報リンク ※ただし、BIが時限的な政策なのか、それとも持続的な政策なのかによってこの調査結果は変わると思うので鵜呑みはできない
むしろ、人々は収入が安定することで精神的な余裕を持ち、その結果としてスキルアップのための学習に時間を使ったり、より良い職を探したりする傾向が見られています。
「働かなくなる」のではなく、「働き方の質が変わる」のであり、時間の使い方を能動的に選び取る自由が生まれるということ。
言い換えれば、ベーシックインカムとは、時間と労働の主導権を“個人の手に取り戻す”制度であると言えるのかもしれません。
最後に──働く未来を希望のあるものにするために
AIによって働くという行為がかつてのようには当たり前ではなくなる時代が来ようとしています。もうちょっと正確な表現にするならば、今まさに働くという概念が変化を遂げている真っ最中とも言えます。
そんな昨今、「努力が足りないから働けない」と切り捨てる社会で生きるのか、あるいは「誰もが安心して挑戦できる社会」を選ぶのか、その選択が問われています。
BIは単なる生活保障ではなく、「労働の意味」そのものを見直し、「生き方の選択肢」を拡張し、「社会の構造」に新たな可能性を見出す制度です。
働くことが恐れや義務ではなく、喜びや可能性になるような社会。
その入口として、ベーシックインカムは私たちの未来に深く根を下ろすべきテーマです。
