ALPS処理水を汚染水と呼ぶことの違和感

ALPS処理水に対して中国や一部の野党より批判的な意見が噴出しています。
その多くが非科学的なものばかりで、世論を誤った方向へ先導してしまうのではないか、そう考えALPS処理水の海洋排出について科学的な見地から記事を作成しました。

※この記事は「ALPS処理水の処分(METI/経済産業省)」情報をベースに作成をしています。

そもそもALPS処理水とは?

ALPS処理水とは、福島第一原子力発電所で発生した放射性物質を含む水を浄化した水です。
このALPSという言葉は、Advanced Liquid Processing Systemの略で、様々な放射性物質を取り除いて浄化する「多核種除去設備」のことを指します。

ALPS処理水を海洋放出する際にはトリチウムについても安全基準を十分に満たす必要があるため、処分する前に海水で大幅に薄めることでその濃度は国の定めた安全基準の40分の1(WHO飲料水基準の約7分の1)未満になっています。

ではなぜ水をALPS「処理水」と言われるように、「処理」をしなくてはいけないのでしょうか。

2011年に起きた福島県の原発事故(東京電力福島第一原子力発電所)。
この事故により原子炉は暴走状態となり、今なお炉内部に残る燃料デブリ(溶けて固まった燃料)は常に冷却する必要があります。
その為、海水などを用いた定期的な冷却作業が行われており、そこで使用された水は高い濃度の放射性物質を含んだ汚染水となります。

この汚染水をALPSという設備を通して処理をしたALPS処理水としての海洋放出が2023年8月24日に開始されました。

ALPS処理水の安全性についての議論には賛否が分かれており、海洋放水に対しては一部の海外(主に中国)からも多数の反対意見が噴出しております。(海を汚すな、魚が食べられなくなる等々)
※ちなみに最も批判的な意見や日本の福島行業関係者へのいたずら電話を繰り返す中国のトリチウム海洋放出量と日本では、その差は約4倍の数字となっています

その中国の意見に足並みを揃えるように国内でも批判的な意見は複数の野党議員からも散見されておりますが、海洋放出の計画は菅政権である2021年4月に発表されており、その間に十分な議論を放置しており、いざ放出が始まってから批判を行うのは批判者の注目度は高まれど方針改正には繋がらないパフォーマンスであると私は考えています。

これまで、ALPS処理水はその呼び名も含めて多くの人々にとって身近な存在ではありませんでした。それもあり、その性質や安全性について多くの疑問が寄せられています。
そこで、今回はALPS処理水の基本的な概要から成分、貯蔵状況、そしてなぜこれが社会的な問題となっているのかについて解説したいと思います。

トリチウムを含んだALPS処理水をどのように検証している?

ALPS処理水は、燃料デブリの冷却水と原子炉建屋およびタービン建屋内に流入した地下水が混ざり合い、多核種除去装置(ALPS)で処理されています。

この装置を通過することで、セシウム、ストロンチウム、アメリシウムなどの放射性物質が除去されますが、トリチウムと呼ばれる水素の同位体は現在の技術では除去することができません。

そのため、ALPS処理水の議論はこのトリチウム残留が中心となっていますが、その影響について多くの研究と議論が行われているにもかかわらず、非科学的な言説が飛び交っているのも事実です。

国際原子力機関(IAEA)は、ALPS処理水の放出に関する技術的なレビューと継続的なモニタリングを行っており、IAEAは放射線物質の特性評価、処理水放出プロセスの安全、放射線環境影響評価、環境モニタリング、規制面からの管理などを検証しています。

その中で、ALPSはトリチウム以外の放射性物質を安全基準を満たすまで浄化するシステムとして評価されており、このプロセスにより水中の放射性物質は大幅に減少し、安全基準に適合するようになることが実証されています。

トリチウムはALPS処理水に残る唯一の放射性物質であり、その濃度は安全基準を十分に満たしていますが、更なる安全性の確保にプラスして海水で薄められることで、その影響は重ねて低減されます。

IAEAは処理水及び環境中の放射性物質のモニタリングを独立して行い、安全性にかかるデータの裏付けを行っており、これにより第三者による客観的な評価が可能となっていることからも、政府による「数字のマジック」に対する懸念は払しょくされました。

科学的な根拠に基づいてみると、ALPS処理水は非常に高い安全性が確保されていると言えます。国際的な専門家による厳格な評価とモニタリングが行われており、その結果が透明に公開されています。したがって、ALPS処理水の安全性については、高い信頼性があります。

なぜトリチウムのについて、懸念する声が大きいのか?

トリチウムの存在が話題になる度に、多くの人々がその安全性について疑問を持っています。

トリチウムは水素の放射性同位体であり、自然界でも微量に存在しますが、トリチウムが人体に与える影響は非常に限定的です。
では全く安全なものかと言えばそうではなく、「短期間に高濃度でトリチウムを摂取した場合」には身体に及ぼす危険性には注意が必要です。

少し煽るように書きましたが、これは「短期間に高濃度」という条件下であり、IAEAは日本の希釈されているALPS処理水によるトリチウムの安全性について評価しており、トリチウムの濃度が一定の基準以下であれば人体や環境に対する影響は「無視できる程度」とされています。

ALPS処理水の処分は多くの人々にとって疑問や懸念を抱かせるテーマです。しかし、この問題にはいくつかの重要な側面があり、それらを理解することで、処分の必要性が明らかになります。

一つ目の理由は、貯蔵スペースの制限です。福島第一原子力発電所では、ALPS処理水は多数のタンクで保管されていますが、これらのタンクは有限なスペースに設置されています。新しいタンクを設置する場合も、土地や環境への影響が考慮されなければならず、無限に拡張するわけにはいきません。これからも議論を重ね、いかに害のない(限りなくゼロに近い)状態まで処理を行い、排出する責任があると考えます。

二つ目の理由は、環境への影響です。長期間、処理水を保管していると、タンクが劣化したり漏れが発生する可能性があります。これが環境に与える影響は計り知れません。

三つ目は、経済的負担です。ALPS処理水の長期的な保管は、メンテナンス費用や人件費、さらには将来的な処理費用を考慮すると、非常に高額なものとなります。

最後に、社会的なプレッシャー、政治的に言えば「民意」にも耳を傾けなければなりません。
地域社会や国際社会からの処分に対する要求は高く、これに応えるためには、適切な処分方法を速やかに見つけ出す必要があります。

処分方法にはいくつかの選択肢がありますが、それぞれにはチャレンジとリスクが伴います。海洋放出、蒸発、地下への注入など、多くの方法が検討されています。

しかし、どの方法も完全にリスクフリーではなく、科学的な根拠と公的な合意が必要であり、コストや環境などを鑑みたとき、現実的な落としどころは海洋放出という選択に至ったものとなります。

ALPS処理水の処分は避けられない課題であり、多角的に考慮する必要があります。貯蔵スペース、環境影響、経済的負担、社会的プレッシャーなど、多くの要素がこの問題の解決を求めています。適切な処分方法を見つけ、それを実行・継続していくことが、今後の課題となっています。

近海の魚は食べても平気なの?

近海でとれた魚は大丈夫なのか?このような疑問も噴出しています。

ALPS処理水の海洋放出が進む中で、一部の人々が近海でとれた魚の安全性について疑問を持っています。
「食物連鎖の中でトリチウムが濃縮する」と言った説も一部で飛び交っています。その疑問に科学的な視点から答えを出してみましょう。

海洋放出されるALPS処理水は、多くの放射性物質を除去した後のものです。しかし、トリチウムなど一部の放射性物質は残っています。これが魚に影響を与える可能性はあるのでしょうか。

多くの研究によれば、放射性物質の濃度が一定以下であれば、魚に対する影響は限定的とされています。なぜならばトリチウムは水と同じように体外へ排出されるため、これは人間であれ魚であれ同じく作用し、体内で蓄積・濃縮されないことが確認されています。
そのため、魚の体内にトリチウムが蓄積され、濃度を高めるという科学的根拠はありません。

更に多くの地域では定期的に魚の放射性物質検査が行われています。これにより、消費者が安心して魚を食べられるようになっています。多くの人々は、科学的な根拠に基づいて安全であると考えていますが、一部の人々は、未知のリスクや環境への影響を懸念しています。

近海でとれた魚の安全性については、定期的なモニタリングと公開されるデータによって一定の安全性が確保されています。それでも近海でとれた魚に対して非科学的な風評が飛び交うことは、地元漁業関係者への負担に繋がるのではないかと懸念しています。

この問題に対する最終的な判断は、政治的主張ではなく、多角的な視点と詳細な研究に基づいて行われるべきです。

結論:ALPS処理水について知っておくべきこと

この記事ではALPS処理水に関する多くの側面について説明してきました。最後に、このALPS処理水に関する問題について知っておくべき主要なポイントをまとめます。

安全性:ALPS処理水は、放射性物質を除去するための高度な浄化プロセスを経ています。しかし、トリチウムなどの一部の物質は完全に除去することができません。そのため、適切な処分が必要です。

環境への影響:ALPS処理水の放出は、海洋生態系に影響を与える可能性がゼロではありません。しかしそれは「短期間に高濃度」という限定的な条件下であり、現状において限りなくゼロに近い状態まで処理を行い、放出することからその危険性をクリアしています。

国際的な見解:ALPS処理水の処分には、国際的な関心が高く、多くの国がその安全性と環境への影響について懸念を示しています。その声は外交問題にも発展しうる可能性もあります。中国による声明はその危険性をはらんでいると考えます。

法的側面:放射性廃棄物の処理には、厳格な法的規制があります。これに違反すると、重大な法的責任が生じる可能性があります。ALPS処理水では国際原子力機関(IAEA)による技術的なレビューと継続的なモニタリングが行われています。

経済的影響:ALPS処理水の処理と処分には高額なコストがかかります。これがエネルギー産業や税金にどのような影響を与えるかも考慮する必要があります。ALPS処理水の放出は2041年から2051年までの間で完了予定です。経済的負担は軽視できません。

社会的課題:ALPS処理水の処分は、地域社会や漁業業者に対する影響もあります。そのため、漁業関係者をはじめとしたステークホルダーとのコミュニケーションが不可欠です。風評被害による東北の経済ダメージを軽減することも政治の担いです。

今後の展望:科学的な進歩により、より効率的な処理方法が開発される可能性があります。しかし、それが現実になるまでの間は現在の処理方法とその影響を理解することが重要です。

まとめ:ALPS処理水には多くの側面があり、その処理と処分は複雑な課題です。科学的、法的、経済的、社会的な要素が絡み合っています。このブログを通じてその全体像を少しでも理解できたなら幸いです。


明ヶ戸亮太(あけど亮太)
1981年生まれ:元 川越市議会議員(三期)・広告会社代表取締役・ICTコンサルタント・ファイナンシャルプランナー / JAPAN MENSA会員 / フィジーカー(APF大会、アスリートモデル部門優勝)
マルチタスク・ラボ
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著書:マルチタスク思考

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